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高森明勅
2016.10.24 01:00

無知なのに傲慢、八木秀次氏の不思議

以前、インタビューに応じた『別冊宝島』が届いた。

タイトルは「天皇と皇室典範」。

第1章に6人のインタビューが掲載されている。

同章のタイトルは「平成の『玉音放送』をこう聞いた」。

掲載順に並べると以下の通り。

八木秀次氏、竹田恒泰氏、高森、所功氏、鈴木邦男氏、君塚直隆氏。

まだ詳しく読んでいない(竹田氏の記事は端から読む気はない)。

ただ八木氏は例によって無知丸出し。

「仮に、新たに譲位の制度をつくるとしても、譲位の要件は
どのように規定すればいいのでしょうか。
例えば何歳から可能なのか。
極端にいえば0歳から可能なのか。
健康状態を要件にすれば、どのような状態を指すのか。
さらに退位にあたっていかに外部の恣意的な要素を排除できる
手続
きをつくるのか」天皇が0歳というのは、可能性として全く
あり得ない訳ではない。

だが勿論、かなり異例のケース。

その場合、当然、摂政が置かれている。

勿論、皇太子もいない。

八木氏はたとえ極論としても、そんな状態で退位を議論する余地が
あり得ると考えている。

信じ難い。

無知なのか、無責任なのか(或いはその両方か)。

少なくとも天皇ご本人に当事者能力があり、
皇嗣が既に成年に達していることが、最低限の「要件」になる。

その程度の想像さえ出来ないとは。

「健康状態」が要件になるのは摂政設置の場合。

高齢による衰えそれ自体は、別に不健康ではない。

今回、天皇陛下がおっしゃっているのは、そちらの問題。

かつ社会の高齢化の中で制度上、検討すべきなのも無論、そっちだ。

「外部の恣意的な要素」は、皇室会議を介在させるから、
当然「排除」出来る。

「(退位後)どのようなご活動が可能なのか、称号、お住まい、
スタッフ、
予算はどうするのか…こういった問題の検討に膨大な
時間がかかります」
いまだにこんな子供騙しの“脅し”が通用すると思っているのか。

それとも、本人も本気でそう信じているほど無知なのか。

退位後の陛下の「ご活動」について迄、
予めあれこれ制約する
必要がある、という発想自体、
まさに戦後憲法学的な天皇「抑圧」論
の延長上の問題設定。

陛下に対して何を“保護者ヅラ”しているのか。

これまで陛下が、皇太子として、天皇として、長い歳月、
その「お務め」を、
どれだけ「全身全霊」で、万全に果たして
来られたと思っているのか。

陛下を“子供扱い”する非礼に気が付かないのか。

「称号」は歴史的に一貫して使われて来た「太上天皇」を
変更しなければならない理由があるのか。

他により適切な称号があるのか。

お住まいは勿論、ご本人のお考えを最優先すべきで、現在の御所に
住み続けられる可能性も当然ある。

八木氏は、新しい天皇には別に新しい御所が用意されて来た
これまでの前例を
、まさか知らない訳ではあるまい。

「スタッフ」についても、これまでの「皇太后宮職」という制度を
拡充すれば良いだけの話。

予算も、これまで通り内廷費が当てられる。

だから検討材料は、長年、低額のまま据え置かれて来た内廷費を、
この際きちんと増額するかどうかだけ(勿論、大幅に増額すべきだ)。

余りに初歩的な議論。

でも、本気で「こういった問題の検討に膨大な時間がかかります」
と言っているなら、彼は本当に知らないのだろう。

こんなことも述べている。

「大喪(たいそう)から即位への一連の儀式について見直すと
いうことについても、
数年単位の時間を要するでしょう」と。

これも不思議な発言だ。

即位に関わる儀式で、特に大幅な「見直し」
を必要とするものはない。

むしろ、「大喪」関連の儀式と切り離されるので、
儀式の流れがよりクリアになる。

これまでの「剣璽(けんじ)
等承継の儀」をもとに、簡素な
「譲位(天皇退位=皇嗣即位)」
の式を整える位だ。

あとは先帝崩御の際は必要だった1年間の諒闇(りょうあん、
天皇が
喪に服される期間)を挟むことなく、
めでたい晴れの儀式が続く。

新帝即位当日の「賢所(かしこどころ)の儀」
「皇霊殿(こうれいでん)・
神殿に奉告の儀」「剣璽等承継の儀」
から始まって、「
即位礼及び大嘗祭後賢所に親謁(しんえつ)の儀」
「同皇霊殿・
神殿に親謁の儀」「同賢所御神楽(みかぐら)の儀」
に至る、
前後およそ50弱の儀式の中で、八木氏は具体的に
(先に述べた“
剣璽等承継の儀”の変更以外)どれを、どのように
「見直す」
必要があると考えているのか。

「数年単位(!)の時間を要する」という根拠をぜひ知りたいものだ。

そうした無知丸出しの放言は勿論、皇室への非礼そのもの。

しかし、それ以上に許し難いのは、次のような暴言だろう。

「『象徴としての務め』が重要視され、それができないことを理由に
自由に退位できるようになると、
皇室の存立基盤を崩すことになり、
皇室は消滅してしまいます」

これは、
8月8日の陛下のお言葉に対する真正面からの
反論以外の何もので
もない。

陛下の“間違った”お言葉に従うと「皇室は消滅してしま」う!
と断定しているのだ。

呆れ果てた傲慢さと言わざるを得ない。

しかも、これだけ重大な断定をしておきながら、
何の根拠も、
論理的な脈絡もない。

象徴としての務めを十分に果たす事が「できない」から
退位されるのなら、「自由」
な退位ではないだろう。

それを「理由に」という言い方は、本当はそうでないのに
(つまり勝手気ままに)、
という意味合いだろうか。

もしそうなら無礼極まる。

更に「象徴としての務め」が「できない」ことを理由に
退位できるように」なると、一体なぜ「皇室の存立基盤を
崩すことにな」るのか。

むしろ、基盤をより固めることになると陛下はお考えのはずだし、
そう考えるのが当たり前だろう。

国民との“繋がり”が一層、確かになるのだから。

それとも、そうなると皇族の方々は誰も彼も皆さまさっさと
「退位」
されてしまう、とでも考えているのか。

だから「皇室は消滅してしま」う! 従って、
退位は絶対に認められない、と。

現に「自由に退位できるようになると…即位拒否の自由に
つながってくる恐れがある…次々に皇位継承・
即位をお断りになれば、
皇室は存立しえなくなります
」とも述べている。

だが今でも事実上、「即位拒否」は可能だ。

例えば園部逸夫氏はこんな指摘をしている。

皇嗣であっても皇室典範第3条により『…重大な事故があるときは、
皇室会議の議により、…
皇位継承の順序を変えることができる』
と定めていることから、
例えば仮に皇嗣が皇位の継承を拒否する
という意思表示を公の場で
行った場合が『重大な事故』に当たると
解することが可能であれば、
皇嗣は自らの意思により皇位を継承しない
という選択を行うことが
可能になる」(『皇室法概論』)と。

陛下はご自身の責任感と使命感によって即位されたのだ。

制度上、「即位拒否の自由」がないからやむなく即位されたのでは
ない。

どこまで皇室の方々を侮っているのか。

まぁ、八木氏の「退位」反対論が採用される恐れは、
万に一つもないのだが。

高森明勅

昭和32年岡山県生まれ。神道学者、皇室研究者。國學院大學文学部卒。同大学院博士課程単位取得。拓殖大学客員教授、防衛省統合幕僚学校「歴史観・国家観」講座担当、などを歴任。
「皇室典範に関する有識者会議」においてヒアリングに応じる。
現在、日本文化総合研究所代表、神道宗教学会理事、國學院大學講師、靖国神社崇敬奉賛会顧問など。
ミス日本コンテストのファイナリスト達に日本の歴史や文化についてレクチャー。
主な著書。『天皇「生前退位」の真実』(幻冬舎新書)『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)『謎とき「日本」誕生』(ちくま新書)『はじめて読む「日本の神話」』『天皇と民の大嘗祭』(展転社)など。

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